コレクション: 野澤梓 | AZUSA NOZAWA

1994年、静岡県出身。

2019年に東京藝術大学絵画科油画専攻を卒業。

野澤梓はパステルのスペクトラムのなかで微睡む少女を幾重にも描き綴る。

そこにはアーティストが幼少からの記憶を辿って、画布に絵筆を動かす祈りも似た行為が再現されている。

野澤が一貫して描いてきた少女像は、特定の人物像である以前に、記憶のなかに沈殿し、何度も立ち上がっては形を変えるイメージの集積である。輪郭は明確に定着することなく、重なり合い、滲み、時に欠落しながら、像は反復される。その反復は単なる主題の繰り返しではなく、一つの像に複数の時間と感情を宿らせるための絵画的操作であり、記憶そのものの在り方を映し出している。

野澤の絵画において特に際立つのは、線と面、内と外といった境界が固定されず、相互に溶け合うように扱われている点である。境界であるはずの線が空白として現れ、あるいは面の一部として吸収されることで、像は確定的な存在としてではなく、揺らぎのうちに留め置かれる。その不確かな境界は、描かれた少女の透明感と同時に、アイデンティティがなお形成途上にある状態を静かに浮かび上がらせる。

このような像の在り方は、美術史において繰り返し描かれてきた肖像表現、とりわけ聖ヴェロニカの聖顔布に象徴されるような「転写され、残される像」の系譜とも共鳴している。そこでは、描くことは単なる再現ではなく、出来事や感情を受け止め、像として留める行為であった。野澤の少女像もまた、個人的な記憶や感情を引き受けながら、それを絵画として定着させようとする営みのなかにある。

神的存在を中心として構築されてきた宗教的イメージが、近代以降、自己や個人史へと内在化していった時代において、野澤が一貫して少女像を描き続けることは、自己という小さな宇宙に向き合う現代的な祈りの形とも言えるだろう。画面に現れる少女は、過去の自己であり、現在の自己であり、なお言葉にならない感情の受け皿でもある。

野澤梓の絵画は、記憶が完全な形で保存されるものではなく、断片として残り、揺らぎながら層を成していくことを静かに示している。その絵画行為は、失われつつあるものに触れ、それでもなお「ここにあるもの」を見つめ続けるための、持続的で誠実な試みなのである。

野澤梓

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